これまでのアートレポート

アートレポート- Art Report -

勅使河原純の『とっても気になるあの展覧会へ「行ってきました」』

ゴヤ ― 光と影展

国立西洋美術館、〜H24年1月29日

優れた画家の特徴のひとつは、間違いなく「現実直視」だろう。この点においてスペインのドン・フランシスコ・デ・ゴヤ・イ・ルシエンテスは、あまたの作家をまったく寄せつけない。宮廷の穏やかな日常であろうと、戦場の無残な光景であろうと、彼は「私は見た」といわんばかりに情容赦なく描き記していく。
女の肉体でもことは少しも変わらなかった。まだヴィーナス以外に裸婦を描く習慣のなかった時代にあって、ゴヤは眼前の女性をさしたる美化もせず淡々と写しとる。その結果、19世紀初頭のマドリードを闊歩していた洒落女のマハは、まったくの裸体で、そして同じポーズをとる着衣の姿で二度描き写された。(写真)
そこには確かに「なぜ?」といいたくなる、不可解さがあるだろう。だが好奇心をくすぐるその不可解さに足をすくわれるより、われわれは200年以上の時空を超えてマハが送ってくる、妙に満ち足りた眼差しの不思議にこそ心奪われるべきなのではないだろうか。
(国立西洋美術館、〜H24年1月29日)

勅使河原 純

東北大学美学西洋美術史学科卒業。世田谷美術館に入り、学芸業務のかたわら美術評論活動をスタート。学芸部長、副館長を経て2009年4月、JR三鷹駅前に美術評論事務所 JT-ART-OFFICE を設立、独立する。執筆・講演を通じ「美術の面白さをひろく伝え、アートライフの充実をめざす」活動を展開中。熟年世代の生活をアートで活気づけるプログラムにも力を入れている。さらにジャーナリズム、ミュージアム、ギャラリー、行政と連携し「プロ作家になりたい人」、「美術評論家として自立したい人」のためのネットワーク・システムづくりを研究・実践している。

公式サイト
http://www.jt-art-office.com/