アートレポート- Art Report -
勅使河原純の『とっても気になるあの展覧会へ「行ってきました」』
2012/3/15 update
フェルメールからのラブレター展
Bunkamura ザ・ミュージアム、〜H24年3月14日
「手紙を書く女」1665年頃、ワシントン・ナショナル・ギャラリー蔵
©National Gallery of Art, Washington, Gioft of Harry Waldon Havemeyer and Horace Havemeyer Jr.,in memory of their father, Horace Havemeyer.
女性が絵のある部屋で一心不乱に手紙を書いている。物音でもしたのだろう。ふと書く手を休め、こちらを振り向く。嬉しそうな目つきだ。だが、眼(まなこ)の奥底から発せられたその視線には、たちまち不吉な憂いの色が浮かんだ。どうやら顔を向けていても、こちらは上の空のようだ。瞳の焦点が合っていない。
唇にはいつも通り挨拶の笑みをたたえている。だがそれとても、一瞬の後には凝結してぎごちなくなる。手紙の相手とのあいだで、いまひとつ腑に落ちないところがあるのだろう。それを手繰り寄せながら追っていくと、いつしかハッとするシーンに行き当たる。
髪にはサテンのリボンを結び、大粒真珠のイヤリングをつけ、アーミン毛皮で縁取りされた黄色いコートに身をつつんでいるというのに、彼女の不安は止めようがない。それにしても美しい女性の心が、これほどまで自然に、的確に捉えられたことが、かつて一度でもあったろうか。
(Bunkamura ザ・ミュージアム、〜H24年3月14日)
勅使河原 純
東北大学美学西洋美術史学科卒業。世田谷美術館に入り、学芸業務のかたわら美術評論活動をスタート。学芸部長、副館長を経て2009年4月、JR三鷹駅前に美術評論事務所 JT-ART-OFFICE を設立、独立する。執筆・講演を通じ「美術の面白さをひろく伝え、アートライフの充実をめざす」活動を展開中。熟年世代の生活をアートで活気づけるプログラムにも力を入れている。さらにジャーナリズム、ミュージアム、ギャラリー、行政と連携し「プロ作家になりたい人」、「美術評論家として自立したい人」のためのネットワーク・システムづくりを研究・実践している。