これまでのアートレポート

アートレポート- Art Report -

勅使河原純の『とっても気になるあの展覧会へ「行ってきました」』

毛利家の至宝展

サントリー美術館、〜H25年5月27日

雪舟等楊筆の「山水長巻(四季山水図)」(写真)は、1486年(室町時代)の作品なのに、どうして茅葺屋根の民家がまったく見当たらないのだろう。当時はむしろ珍しかっただろうと思われる瓦屋根ばっかりだ。石橋の形も異様である。そして釣舟がみんな屋形舟になっている。登場してくる人物たちは裾の長い衣を着て、ことごとく細帯をしている。どこか普通ではない。
つまり、これは日本の風景ではない。南宋の画人・夏珪の作品に倣ってあらわされた、彼の国の理想郷ではないだろうか。現に雪舟は、応仁元年明に渡航してもいる。
長巻図は、風景から印象的なシーンだけを抜き取って巧みに再構成されている。つまり16mという長さのなかに、実はその何倍もの空間を重層的に入れこんでいるのだ。そしてその不連続は、連綿とつづく岩壁の、何と中途での「描写放棄」という意表を衝くカット技法によって、きわめて強調されている。
本来巨岩によって密閉されているはずの重苦しい空間を、逆に虚の余白へと開放してみせる。こうした手法のなかで観者の視覚は、いつしか雪舟-夏珪の絵画的「嘘」に呑みこまれていく。
(サントリー美術館、〜H25年5月27日)

勅使河原 純

東北大学美学西洋美術史学科卒業。世田谷美術館に入り、学芸業務のかたわら美術評論活動をスタート。学芸部長、副館長を経て2009年4月、JR三鷹駅前に美術評論事務所 JT-ART-OFFICE を設立、独立する。執筆・講演を通じ「美術の面白さをひろく伝え、アートライフの充実をめざす」活動を展開中。熟年世代の生活をアートで活気づけるプログラムにも力を入れている。さらにジャーナリズム、ミュージアム、ギャラリー、行政と連携し「プロ作家になりたい人」、「美術評論家として自立したい人」のためのネットワーク・システムづくりを研究・実践している。

公式サイト
http://www.jt-art-office.com/