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アートレポート- Art Report -

勅使河原純の『とっても気になるあの展覧会へ「行ってきました」』

2012/7/03 update

「吉川霊華」展

東京国立近代美術館 2012年6月12日(火)~7月29日(日)

会場に入ると、まず「神龍図」の大画面に驚かされる。これが、あの御仏たちを 艶かしい線で描き出した繊細な画家の、もう一つの本領なのだろうか。それにしても 墨と金彩の響き合いが素晴らしい。 吉川霊華(本名・吉川隼ひとし、1875-1929)は東京・湯島に生まれ、橋本雅邦や 小山正太郎に学んでいるが、いまひとつ納得しないものがあった。やがて松原佐久を 通じて復古大和絵の大家・冷泉為恭に出会うにおよんで、ようやく己の世界に目覚めていく。 以後山名貫義、小堀鞆音らの有職故実を貪欲に吸収し、古代中国などを自由に行き来できる 画境を得ることになる。 そしてこの「離騒」(写真は双幅の部分、1925年)にも鮮明に伺われる流麗な線描により、 大観、春草等が切り拓いた近代日本画の重要な一面を継承していくことになる。やや地味ではあるが、 決して看過し得ない大事な展覧会というべきだろう。
(東京国立近代美術館、~H24年7月29日)

勅使河原 純

東北大学美学西洋美術史学科卒業。世田谷美術館に入り、学芸業務のかたわら美術評論活動をスタート。学芸部長、副館長を経て2009年4月、JR三鷹駅前に美術評論事務所 JT-ART-OFFICE を設立、独立する。執筆・講演を通じ「美術の面白さをひろく伝え、アートライフの充実をめざす」活動を展開中。熟年世代の生活をアートで活気づけるプログラムにも力を入れている。さらにジャーナリズム、ミュージアム、ギャラリー、行政と連携し「プロ作家になりたい人」、「美術評論家として自立したい人」のためのネットワーク・システムづくりを研究・実践している。

公式サイト
http://www.jt-art-office.com/