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アートレポート- Art Report -

勅使河原純の『とっても気になるあの展覧会へ「行ってきました」』

2012/9/20 update

「ジェームズ・アンソール」展

損保ジャパン東郷青児美術館 2012年9月8日(土)~11月11日(日)

○「ジェームズ・アンソール ― 写実と幻想の系譜 ―」
仮面 ―― 何と魅惑的な響きに満ちた対象なのだろう。
近現代人は仮面によって他人を脅したり、誑(たぶら)かしたりするばかり
ではない。むしろ外界に対し、あまりに醜い己れを隠すため、しばしばこの
便利な小道具を用いてきた。この小賢しく見え透いたツールに、あまりにも
長く慣れ親しんだため、もはや一刻としてそれなしには生きられなくなって
しまったといってもいい。
批評家ロベール・デルヴォアよれば、アンソールほど美術史上の規範に
素直だった画家はいないらしい。この「陰謀」1890年カンヴァス・油彩 という
作品(写真部分)では、敬愛してやまないルーベンスの宗教画に構図を
借りているといわれる。だが、そこに描き表されたのは男の主人公への
陰謀を企てている人々の果てなき執念だ。仮面の上にさらに被せられた
何枚もの仮面。もはや素顔がどのようなものであったのかすら判然としない、
恐るべき人間世界の描出である。

作品名:ジェームズ・アンソール「陰謀」(部分)1890年




勅使河原 純

東北大学美学西洋美術史学科卒業。世田谷美術館に入り、学芸業務のかたわら美術評論活動をスタート。学芸部長、副館長を経て2009年4月、JR三鷹駅前に美術評論事務所 JT-ART-OFFICE を設立、独立する。執筆・講演を通じ「美術の面白さをひろく伝え、アートライフの充実をめざす」活動を展開中。熟年世代の生活をアートで活気づけるプログラムにも力を入れている。さらにジャーナリズム、ミュージアム、ギャラリー、行政と連携し「プロ作家になりたい人」、「美術評論家として自立したい人」のためのネットワーク・システムづくりを研究・実践している。

公式サイト
http://www.jt-art-office.com/