これまでのアートレポート

アートレポート- Art Report -

勅使河原純の『とっても気になるあの展覧会へ「行ってきました」』

2013/4/6 update

「フランシス・ベーコン展」

東京国立近代美術館 2013年3月8日(金)~2013年5月26日(日)

「叫ぶ教皇のための習作」

1909年アイルランドのダブリンに生まれた同性愛者、フランシス・
ベーコン。彼は電話番からインテリア・家具デザイナーまでさま
ざまな仕事を転々とし、最後には画業へとたどりつく。だがその
作品は、ほかの誰とも似ていない。まったくベーコン独自の、独り
懸け離れたものであった。
たとえばある男の胸像が描かれる(写真)。口を大きく開け、白い歯
をみせて何ごとか叫んでいる。初老の紳士には似つかわしくない、
烈しい憎悪ないし恐怖に満ちた怒りの表情だ。縁なしメガネは毀れ、
いましも顔から吹き飛ばされんばかりである。そして男はローマ
教皇その人という。だが、ここにカトリック的意味合いは「まったく
ない」らしい。そうなるとわれわれに残された手掛かりは、
セルゲイ・エイゼンシュティンの映画「戦艦ポチョムキン」に出て
くる母親の泣き顔だけだ。オデッサの階段で口を開け、メガネを
鼻からずり落ちさせている。だがこれとて作者が少し前にこの
映画を観ていたという状況証拠があるだけだ。
こうしてフランシス・ベーコンは、絵画(現代美術)が少しずつ
難解な方へと向かう時代の、最後にして最大の人物となったので
ある。                 

 画像:「叫ぶ教皇のための習作」1952年
        Yale Center for British Art




勅使河原 純

東北大学美学西洋美術史学科卒業。世田谷美術館に入り、学芸業務のかたわら美術評論活動をスタート。学芸部長、副館長を経て2009年4月、JR三鷹駅前に美術評論事務所 JT-ART-OFFICE を設立、独立する。執筆・講演を通じ「美術の面白さをひろく伝え、アートライフの充実をめざす」活動を展開中。熟年世代の生活をアートで活気づけるプログラムにも力を入れている。さらにジャーナリズム、ミュージアム、ギャラリー、行政と連携し「プロ作家になりたい人」、「美術評論家として自立したい人」のためのネットワーク・システムづくりを研究・実践している。

公式サイト
http://www.jt-art-office.com/