これまでのアートレポート

アートレポート- Art Report -

勅使河原純の『とっても気になるあの展覧会へ「行ってきました」』

2013/5/23 update

「アントニオ・ロペス展」

Bunkamuraザ・ミュージアム 2013年4月27日(土)~2013年6月16日(日)

「アントニオ・ロペス展」

写実の名手として、すでに神のごとき風格を具えたスペイン
の作家アントニオ・ロペス。数多い作品のなかでもとくに
知られているのは、マドリード一の目抜き通りを描いた
その名も「グラン・ビア」だ。グラッシィ時計店の塔のよう
にそそり立った上部には、ピアジェ (これも老舗時計店名)
の下にデシタル信号で「06 30」と読める。 夏の早朝だ。
友人のエンリケ・グランとともにグラン・ビアに出かけた
画家は、その見慣れた、しかし人気のない景色の超自然的
な魅惑に撃たれたという。それからというもの、彼は毎年
その季節になると通りのど真ん中、歩道の端の信号機に
からみつくようにしてイーゼルを立てる。 制作は朝の微かな
光が、テレフォニカ・ビルの白い威容を浮かび上がらせるか
どうかの、わずか10分間。 写真では決して捉まえられない
情景を把握するため、作家は7年もの 間このスポットに
通わねばならなかった。
「だが」というか「それゆえに」というか、画面にロペスの固執
はない。自分の小宇宙に封じこめておくには、マドリードは
偉大過ぎるということだろうか。彼は対象にも、写しとること
にも、己れの 手業にも関心がないようだ。しいて挙げれば
「見た」という事実へのこだわりだろうか。
― 写実をめぐって、ここまで乾いた感性をみせられた後に
吐く言葉は、みんな干からびていくようだ。               

 




勅使河原 純

東北大学美学西洋美術史学科卒業。世田谷美術館に入り、学芸業務のかたわら美術評論活動をスタート。学芸部長、副館長を経て2009年4月、JR三鷹駅前に美術評論事務所 JT-ART-OFFICE を設立、独立する。執筆・講演を通じ「美術の面白さをひろく伝え、アートライフの充実をめざす」活動を展開中。熟年世代の生活をアートで活気づけるプログラムにも力を入れている。さらにジャーナリズム、ミュージアム、ギャラリー、行政と連携し「プロ作家になりたい人」、「美術評論家として自立したい人」のためのネットワーク・システムづくりを研究・実践している。

公式サイト
http://www.jt-art-office.com/