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アートレポート- Art Report -

勅使河原純の『とっても気になるあの展覧会へ「行ってきました」』

2013/6/24 update

「貴婦人と一角獣展」

国立新美術館 2013年4月24日(水)~2013年7月15日(月・祝)

「貴婦人と一角獣展」

近年稀にみるユニークな展覧会である。何しろ展示されて
いるのはフランス国立クリニュー中世美術館からやってきた、
6枚の大きなタピスリーだけである。ところがこれら真紅の
織物が貴婦人と侍女、一角獣と獅子、鳥、犬、猿、ウサギ、
ヒツジあるいは千花模様(ミル・フルール)、樹木といた共通
要素によって、一体何を伝えたかったのかといえば、つまる
ところよくは分からないのだ。
1500年ごろ北フランス、ル・ヴェスト家(家紋は三連の三日月
模様)の当主アントワーヌ2世が、膨大な時間と費用をかけて
ジャン・ディープルと目されているタピスリー作家に制作を
依頼したのはなぜか。そこに美的な愉しみや慰めが全くなかっ
たとはいうまい。だがそれだけだったといわれれば、正直いま
一つしっくりとはこない。
この謎に歴史家A.F.ケンドリックは何とも心憎い解答を与えた。
すなわち5枚は触覚、味覚、嗅覚、聴覚、視覚をあらわし、
「我が唯一の望み」と書かれた最後の6枚目は、第6感をあら
わすと。観念の世界へジャンプさせてしまえば、とりあえず
妙に人間臭い獅子や鎖につながれた猿の寓意は問わなくて
済むからだ。

だがここに登場する要素は、どれも均等ではないし、決して
似通ってもいない。私などは「実在(固有名詞)のありとあら
ゆるものを寄せ集めて」きて、当時の社会システムを辛辣に
揶揄した「アントワーヌ流中世曼荼羅」なのではあるまいかと、
密かに妄想を逞しくするばかりである。

               
画像:「貴婦人と一角獣 触覚」部分、1500年ごろ、
    羊毛、絹、縦369-373×横352-358cm
    (C)RMN-Grand Paris/Franc Raux/
   Michel Urtado/distributed by AMF-DNPartcom

 




勅使河原 純

東北大学美学西洋美術史学科卒業。世田谷美術館に入り、学芸業務のかたわら美術評論活動をスタート。学芸部長、副館長を経て2009年4月、JR三鷹駅前に美術評論事務所 JT-ART-OFFICE を設立、独立する。執筆・講演を通じ「美術の面白さをひろく伝え、アートライフの充実をめざす」活動を展開中。熟年世代の生活をアートで活気づけるプログラムにも力を入れている。さらにジャーナリズム、ミュージアム、ギャラリー、行政と連携し「プロ作家になりたい人」、「美術評論家として自立したい人」のためのネットワーク・システムづくりを研究・実践している。

公式サイト
http://www.jt-art-office.com/