これまでのアートレポート

アートレポート- Art Report -

勅使河原純の『とっても気になるあの展覧会へ「行ってきました」』

2014/2/20 update

シャヴァンヌ展

Bunkamuraザ・ミュージアム 2014年1月2日(木)~2014年3月9日(日)

シャヴァンヌ展

日本人が絵を描く。それも油絵具なんぞというものを使って、
ブラシで描く。さて、その絵は「どこからやって来たのか」
と問われると、いろいろな答えが考えられよう。
高橋由一、横濱繪、アントニオ・フォンタネージ、山本芳翠…。
幕末明治期、イタリアを凌駕しつつあった大国フランスに
「外光派」という、名前からしてどことなく印象派を想わせる、
脱アトリエを標榜する一派があった。これを徹底的に学んで
帰国した東京美術学校教授・黒田清輝を、御開祖として
思い浮かべる人は少なくないかもしれない。
彼の銀灰調の画業に注目するならば、その師ラファエル・コラン
から、ついには19世紀フランス画壇の重鎮ピュヴィス・ド・
シャヴァンヌへと辿り着かねばならない道理だ。アルカディア
(桃源郷)を艶消しの清澄な色遣いであらわした、伝説の壁画作家
へと否応なく行き着いてしまうのである。

だが残念なことに、多くの人の思いはそこでプッツリと途切れる。
なぜかって? そう、われわれはピュヴィス・ド・シャヴァンヌ
(1824-1898)の本格的な作品をみる機会に、長いあいだ恵まれて
こなかったからだ。
それにしても黒田は、サロン(ソシエテ・ナショナル・デ・ボザール)
会長シャヴァンヌのどこに惚れたのだろう。いち早く野外の光に目を
つけた進取の気風か。ギリシャ神話を視覚化する構想の雄大さか。
憶測は憶測生み、ただ折り重なっていくばかりである。
だが幸運にも、待望久しいこの展覧会をながめられた人々は、
シャヴァンヌの「瞑想」(1867年)デッサンや「海辺の乙女たち」
(1879年)の身振り、さらには「聖人のフリーズ」(1879年ごろ)を
飾る金箔などに、われらが遠きご先祖様の証をみつけて、ただただ
感嘆するのである。
(Bunkamura ザ・ミュージアム~H26年3月9日 )

               
画像:「諸芸術とミューズたちの集う聖なる森」
    1884-89年頃、油彩・カンヴァス、
    93.0×231.0cm、シカゴ美術館蔵




勅使河原 純

東北大学美学西洋美術史学科卒業。世田谷美術館に入り、学芸業務のかたわら美術評論活動をスタート。学芸部長、副館長を経て2009年4月、JR三鷹駅前に美術評論事務所 JT-ART-OFFICE を設立、独立する。執筆・講演を通じ「美術の面白さをひろく伝え、アートライフの充実をめざす」活動を展開中。熟年世代の生活をアートで活気づけるプログラムにも力を入れている。さらにジャーナリズム、ミュージアム、ギャラリー、行政と連携し「プロ作家になりたい人」、「美術評論家として自立したい人」のためのネットワーク・システムづくりを研究・実践している。

公式サイト
http://www.jt-art-office.com/