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アートレポート- Art Report -

勅使河原純の『とっても気になるあの展覧会へ「行ってきました」』

2014/3/21 update

「岸田吟香・劉生・麗子」展

世田谷美術館 2014年2月8日(土)~2014年4月6日(日)

「岸田吟香・劉生・麗子」展

妬み嫉(そね)みは世の常なれど、岸田劉生ほど後の絵描きたちから
羨ましがられる存在もあるまい。
「若くしてさっさと老成してしまった」。「なんたって冬瓜ばかり
描いているんだもの」。「洋画家といっても、日本人はみな、最後は
ここ(文人趣味)へ逃げこむのだ」にいたっては、もはや自嘲に近い。
原因は完璧な独学でありながら、二科展、文展をはじめあらゆる展覧
会を総なめにした豊かな絵画的天分にある。
愛娘をモデルに「麗子像」という、それまで誰ひとりとして思いつかな
かった新ジャンル(和風童女画)を確立した運のよさもあろう。
それに父・岸田吟香の評判を背に、38年という短い生涯のうちに
やりたいことをすべてやり尽くした感のある手際のよさだって、
考えようによればカッコいいといえなくもない。
だが、それにしてもである。「近藤医学博士之像」が手に持つ一本の
可憐な花をみていると、個の表現をもとめて湯呑みひとつに至るまで
一切妥協せず、己れを貫き通した異端という生き方の有り様が、
あらためて静かに伝わってくる展示会場ではなかったろうか。

画像:岸田劉生 「麗子十六歳之像」1929年、
    カンヴァス・油彩、47.2×24.8cm




勅使河原 純

東北大学美学西洋美術史学科卒業。世田谷美術館に入り、学芸業務のかたわら美術評論活動をスタート。学芸部長、副館長を経て2009年4月、JR三鷹駅前に美術評論事務所 JT-ART-OFFICE を設立、独立する。執筆・講演を通じ「美術の面白さをひろく伝え、アートライフの充実をめざす」活動を展開中。熟年世代の生活をアートで活気づけるプログラムにも力を入れている。さらにジャーナリズム、ミュージアム、ギャラリー、行政と連携し「プロ作家になりたい人」、「美術評論家として自立したい人」のためのネットワーク・システムづくりを研究・実践している。

公式サイト
http://www.jt-art-office.com/