これまでのアートレポート

アートレポート- Art Report -

勅使河原純の『とっても気になるあの展覧会へ「行ってきました」』

2014/4/11 update

特別展「栄西と建仁寺」

東京国立博物館平成館 2014年3月25日(火)~2014年5月18日(日)

「栄西と建仁寺」

明庵栄西(1141-1215)。これで「みんなんようさい」と読む。
わが国にはじめて禅宗を伝え、京都の古刹・建仁寺を開いた人
である。仏法の刷新だけでなく、中国より喫茶の習慣をもたらす
など、当時の文化全般の改革者でもあった。それゆえか建仁寺と
ゆかりの寺々には、古来数多くの茶道具や並外れた美術品が収蔵
されてきた。俵屋宗達の「風神雷神図屏風」、海北友松「雲龍図」
狩野山楽「狩猟図」、伊藤若冲「雪梅雄鶏図」…。
だが私がここで注目するのは、そうした格調の高い作例ではない。
鬼才・長沢芦雪が、何と筆さえ使わず紙に直接手で墨汁をなすり
つけていったとおぼしき、指画の「牧童吹笛図」(18世紀、京都・
久昌院蔵)だ。
それでは一体この絵のどこが、指で描かれたというのだろう。
詳しいことは定かでないようだが、私は童子の細いポキポキとした
描線や落款は爪先で、やや太い墨線は指の腹や側面で、頭髪や牛
全体の濃淡はふたつの掌を使って滑るように描かれたと思う。
筆は一切使われていないのではなかろうか。
だとすれば、ここまで描き切るためには、前もって童子の図柄が
完璧に頭に入っていることが必要だ。偶然のシミや滲み・滴りを
巧みに利用し、何とか牛らしくみせていく、現代アートそこのけの
自在な発想も欠かせない。そしてパフォーマンスの末に出来上がった
ものを、最後まで美術作品といいくるめていく押しの強さもなくては
ならないだろう。どれをとっても超のつく一流がもとめられることは、
もとより言を俟たない。

画像:「牧童吹笛図」(18世紀、京都・久昌院蔵)




勅使河原 純

東北大学美学西洋美術史学科卒業。世田谷美術館に入り、学芸業務のかたわら美術評論活動をスタート。学芸部長、副館長を経て2009年4月、JR三鷹駅前に美術評論事務所 JT-ART-OFFICE を設立、独立する。執筆・講演を通じ「美術の面白さをひろく伝え、アートライフの充実をめざす」活動を展開中。熟年世代の生活をアートで活気づけるプログラムにも力を入れている。さらにジャーナリズム、ミュージアム、ギャラリー、行政と連携し「プロ作家になりたい人」、「美術評論家として自立したい人」のためのネットワーク・システムづくりを研究・実践している。

公式サイト
http://www.jt-art-office.com/