これまでのアートレポート

アートレポート- Art Report -

勅使河原純の『とっても気になるあの展覧会へ「行ってきました」』

2014/5/18 update

特別展「バルテュス展」

東京都美術館 2014年4月19日(土)~ 6月22日(日)

《夢見るテレーズ》

明庵栄西(1141-1215)。これで「みんなんようさい」と読む。
ブラウスのボタンを外し、片方の肩と半ば成熟した可愛らしい
乳房をあらわにする。そうかと思うと腰のあたりにまでスカート
をたくし上げ、わざと片膝立てて、視線を股間の奥へ奥へと誘う。
そうしたバルテュスと美少女たちの、悪戯っぽい仕草のエスカ
レートは、みる人の立場によって受け取り方もさまざまだろう。
女性たち、とくに若い女たちは恐らくそこに、自らの本能のごく
自然な発露を発見するに違いない。一方、男たちは年齢に関わらず
どこか後ろ冷たい。日ごろ抑圧されている隠微な欲望の、変態的な
デフォルメを連想せざるを得ないからだ。

そして批評家は、名だたるハンサムボーイ(モテ男)にのみ許されて
きたエロチシズムという秘匿のジャンルが、いま「称賛と誤解だらけ
の/20世紀最後の巨匠」、あるいは「この上なく完璧な美の象徴/
美少女」と持ち上げられ、白日のもとに晒されるのを、大いなる
誇らしさと多少の口惜しさをもって、じっと眺め入っている。
振り返ってみれば、キュビスムやシュルレアリスムに翻弄され、
第1・2次世界大戦という際限なき殺戮に明け暮れた20世紀の
アーティストたちは、あまりに美少女なる現存在を離れ過ぎた
のではなかったろうか。その狂おしいまでの輝きを忘れ、成熟へと
向かおうとする無垢な女体の色香を無視し過ぎてきたのかもしれない。
いまこそ勇気ある先達、われらがバルテュス(1908-2001)閣下を
見出し、学ぶべきだろう。ヨーロッパ随一の、現代の光源氏として。
(『バルテュス展』東京都美術館、~H26年6月22日)
画像:《夢見るテレーズ》 1938 年 油彩、カンヴァス 150x130.2cm
    メトロポリタン美術館




勅使河原 純

東北大学美学西洋美術史学科卒業。世田谷美術館に入り、学芸業務のかたわら美術評論活動をスタート。学芸部長、副館長を経て2009年4月、JR三鷹駅前に美術評論事務所 JT-ART-OFFICE を設立、独立する。執筆・講演を通じ「美術の面白さをひろく伝え、アートライフの充実をめざす」活動を展開中。熟年世代の生活をアートで活気づけるプログラムにも力を入れている。さらにジャーナリズム、ミュージアム、ギャラリー、行政と連携し「プロ作家になりたい人」、「美術評論家として自立したい人」のためのネットワーク・システムづくりを研究・実践している。

公式サイト
http://www.jt-art-office.com/