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アートレポート- Art Report -

勅使河原純の『とっても気になるあの展覧会へ「行ってきました」』

2014/9/02 update

「ヨコハマトリエンナーレ 2014」

横浜美術館+新港ピア 2014年8月1日(金)~11月3日(月・祝)

「移動舞台車」

 

 猛暑のなか「ヨコハマトリエンナーレ 2014:華氏451の芸術」が
はじまった。相変わらず難しそうなタイトルだ。聞けばブラッド
ベリのSF小説「華氏451度」から採られたものだという。大切な
書物が燃やしつくされ、TV画像ばかりがもて囃される世界で、
なお存在し得る芸術とは何か?
そんな謎かけに触発されたわけではないが、記憶に残ったのは
横浜美術館の「Kama Gei 釜ヶ崎芸術大学」と新港ピアの「移動
舞台車」。もはや埒外のアートなど、どこを探しても存在しない
かにみえた状況のなかから、鮮やかに掬いとられた巻頭グラビヤ
2ページといった塩梅だ。
とくに「移動舞台車/ステージトレーラー・プロジェクト」には、
発想といい迫力といい、頭抜けたところがある。

出展者のやなぎみわよると、そもそもの発端は中上健次の小説
「日輪の翼」。そこに出てくる7人の老女たちが、彼女の心をワシ
づかみにしたらしい。老女たちは大型の冷凍トレーラーにのりこみ、
茶粥をすすり、御詠歌を唱えながら、住み慣れた故郷熊野の路地を
はなれ、全国各地の聖地巡りの旅に出る。行く先々で神々に狂喜
する老女と、夜毎女漁りに狂奔する運転手たち。その滑稽と逸脱に
浸るうち、やなぎは台湾で出会ったステージトレーラーをヨコトリ
に招聘することを思いついたらしい。

オープニング当日、そのけばけばしい電飾の舞台で披露されたのは、
アメリカ産台湾育ちの大層エロティックなポールダンスであった。

(横浜美術館+新港ピア、~H26年11月3日)
【写真キャプション】 「移動舞台車」




勅使河原 純

東北大学美学西洋美術史学科卒業。世田谷美術館に入り、学芸業務のかたわら美術評論活動をスタート。学芸部長、副館長を経て2009年4月、JR三鷹駅前に美術評論事務所 JT-ART-OFFICE を設立、独立する。執筆・講演を通じ「美術の面白さをひろく伝え、アートライフの充実をめざす」活動を展開中。熟年世代の生活をアートで活気づけるプログラムにも力を入れている。さらにジャーナリズム、ミュージアム、ギャラリー、行政と連携し「プロ作家になりたい人」、「美術評論家として自立したい人」のためのネットワーク・システムづくりを研究・実践している。

公式サイト
http://www.jt-art-office.com/