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アートレポート- Art Report -

勅使河原純の『とっても気になるあの展覧会へ「行ってきました」』

2014/11/13 update

「ウフィッツィ美術館展」

東京都美術館 2014年10月11日(土)~12月14日(日)

「ウフィッツィ美術館展」

 

グランディ・オッフィチーネ(大工房)が覇を競った時代、すなわち
15世紀後半のフィレンツェをながめると、サンドロ・ボッティチェリ
という一人の画家が目に飛びこんでくる。
今回の「ウフィッツィ美術館展」(東京都美術館~H26/12/14)でも
初期の聖母子像から最盛期の「パラスとケンタウロス」、そして
そんな謎かけに触発されたわけではないが、記憶に残ったのは
晩年の瞑想的な作品まで、工房のものを含めて9点の傑作が展示
されている。
なかでも「パラスとケンタウロス」は頭部や胸、腕にオリーブの
枝を這わせた女神(パラス)がいかにもギリシャ神話からやって
きたと思わせる点で、まるで彼の「プリマヴェーラ(春)」に
登場するフローラや「ヴィーナスの誕生」の主人公と瓜ふたつ
だろう。これこそが、花や指輪をふんだんに薄衣に纏わせて
生身の女を無垢の天女へと変身させる、ボッティチェリの真骨頂
ではなかろうか。
女神は、柵のなかのサンクチュアリー(聖域)を監視する役目を
象徴している斧槍や背中の盾をちらつかせながら、いきなり粗野な
闖入者ケンタウロスの頭髪をつかむ。不意をつかれた半人半獣は、
意外にも戸惑いを隠せない。武器を手に、いましも欲情にかられた
悪だくみを実行に移さんとしたところを、気高い女神に見透かされ
、やんわりといなされてしまったからだ。
ケンタウロスの筋骨隆々たる剥き出しの肉体と、オリーブの花に
擬せられたパラスの乳首。このような異教徒的エロティシズムを
鷹揚に受け入れるところにもまた、豪奢にして清濁あわせ呑む
黄金期ルネサンスの奥深い魅力が伺われるだろう。

(東京都美術館、~H26年12月14日)
【画像】サンドロ・ボッティチェリ《パラスとケンタウロス》




勅使河原 純

東北大学美学西洋美術史学科卒業。世田谷美術館に入り、学芸業務のかたわら美術評論活動をスタート。学芸部長、副館長を経て2009年4月、JR三鷹駅前に美術評論事務所 JT-ART-OFFICE を設立、独立する。執筆・講演を通じ「美術の面白さをひろく伝え、アートライフの充実をめざす」活動を展開中。熟年世代の生活をアートで活気づけるプログラムにも力を入れている。さらにジャーナリズム、ミュージアム、ギャラリー、行政と連携し「プロ作家になりたい人」、「美術評論家として自立したい人」のためのネットワーク・システムづくりを研究・実践している。

公式サイト
http://www.jt-art-office.com/