これまでのアートレポート

アートレポート- Art Report -

勅使河原純の『とっても気になるあの展覧会へ「行ってきました」』

2014/12/19 update

「ホイッスラー展」

東京都美術館 2014年12月6日(土)~2015年3月1日(日)

「ホイッスラー展」

 

ジェームズ・マクニール・ホイッスラーがパリを離れ、ロンドンに
移り住むようになった1859年という年代には、かなりの意味がある
だろう。1862年にロンドンで開催された万国博覧会をみた可能性が
出てくるからだ。
そこには初代駐日公使ラザフォード・オールコックの、それは見事な
日本美術コレクションが展示されていた。ホイッスラーはその翌年
から、大胆なトリミング手法や装飾性にあふれた「オリエンタル・
ペインティング」をはじめているのだ。しかも彼のジャポニスム
(日本趣味)は、ほかの人とはまったく趣を異にしていた。
扇子やキモノといった小道具を加えて異国趣味を盛り上げるのでは
なく、逆に画面からほとんどすべての道具立て、すなわち物語性を
剥ぎとっている。
詩人チャールズ・スウィンバーンが「この絵が意味するのは美その
ものであり、存在するということだけがこの絵の存在理由である」
と述べた、唯美主義のはじまりだ。
画面は「ノクターン:青と金色-オールド・バターシー・ブリッジ」
(写真、1872-75年)にみられるように、ほとんど墨絵に近いモノ
トーンである。つまりホイッスラーは当時の画家としてはほとんど
唯独り、日本から派手な琳派の色彩ではなく、より瞑想的な水墨画の
渋みを選びとったのだ。その極限まで研ぎ澄まされた感覚は、
ある意味音楽的でさえあるといえよう。
画家自身もそう考えたらしく、作品に「シンフォニー」「ハーモニー」
「ノクターン」といった音楽用語を含むタイトルを付している。
まさに「すべての芸術は絶えず音楽の状態に憧れる」という、
批評家ウォルター・ペイターの指摘通りだった。
(横浜美術館、~H27年3月1日)

【画像】《ノクターン:青と金色-オールド・バターシー・ブリッジ》




勅使河原 純

東北大学美学西洋美術史学科卒業。世田谷美術館に入り、学芸業務のかたわら美術評論活動をスタート。学芸部長、副館長を経て2009年4月、JR三鷹駅前に美術評論事務所 JT-ART-OFFICE を設立、独立する。執筆・講演を通じ「美術の面白さをひろく伝え、アートライフの充実をめざす」活動を展開中。熟年世代の生活をアートで活気づけるプログラムにも力を入れている。さらにジャーナリズム、ミュージアム、ギャラリー、行政と連携し「プロ作家になりたい人」、「美術評論家として自立したい人」のためのネットワーク・システムづくりを研究・実践している。

公式サイト
http://www.jt-art-office.com/