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アートレポート- Art Report -

勅使河原純の『とっても気になるあの展覧会へ「行ってきました」』

2015/03/05 update

「幻想絶佳 :アール・デコと古典主義」展

東京都庭園美術館 2015年1月17日(土)~2015年4月7日(火)

「幻想絶佳」展

 

漆に卵の殻の象嵌かと思ったら然にあらず。ローズウッド・黒檀の
木地に象牙の図柄だそうです。それにしてもこの「幻想絶佳」という
聴き慣れないタイトルの展覧会をみて、出てくるのは溜息ばかり。
東西の王侯貴族、大富豪たちの目を見張るような日常が手にとる
ように分かるからです。
1910年ごろの衣・食・住すべての華麗さが光ります。なかでも家財道具
への凝り方は尋常ではありません。
たとえばエミール-ジャック・リュルマン制作のこのキャビネット。
ピアノの鍵盤のようなデコレーションの下に破線模様があるかと思えば、
それに囲まれた花瓶デザインの艶(あで)やかなこと。
モダンとエレガンスの合体したアール・デコのなかでも傑出した
ユニークさで、もはや比べるものとてない有様です。工業製品など
およびもつかないフランス文化の洗練とは、こうした調度品のことを
いうのでしょうか。
置物彫刻でも、美女の頭上からしなだれ落ちてくる花房がやがて
彼女の身体を徐々に包みこんでいくという、考えられないアイデアを
ヴィジュアル化した逸品などがあります。
一部屋ずつめぐっていくと、アール・デコに秘められた意外な
古典主義的傾向など、もうどうでもよくなってしまいますよ。ホント。
(東京都庭園美術館、~H27年4月7日)

【画像】ジャック=エミール・リュールマン 《キャビネット》 1922-1923年
     (c)Mobilier national / Isabelle Bideau




勅使河原 純

東北大学美学西洋美術史学科卒業。世田谷美術館に入り、学芸業務のかたわら美術評論活動をスタート。学芸部長、副館長を経て2009年4月、JR三鷹駅前に美術評論事務所 JT-ART-OFFICE を設立、独立する。執筆・講演を通じ「美術の面白さをひろく伝え、アートライフの充実をめざす」活動を展開中。熟年世代の生活をアートで活気づけるプログラムにも力を入れている。さらにジャーナリズム、ミュージアム、ギャラリー、行政と連携し「プロ作家になりたい人」、「美術評論家として自立したい人」のためのネットワーク・システムづくりを研究・実践している。

公式サイト
http://www.jt-art-office.com/