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アートレポート- Art Report -

勅使河原純の『とっても気になるあの展覧会へ「行ってきました」』

2017/5/27 update

「岡本太郎×建築」展―衝突と協同のダイナミズム

川崎市岡本太郎美術館 2017年4月22日(土)~ 7月2日(日)

「岡本太郎×建築」展

 

大阪万博のシンボルゾーンとなった「お祭り広場」には、
鉄パイプ製の大屋根が架けられていた。それを突き破る
ようにして、岡本太郎は「太陽の塔」(1970年)を立ち
上げている。白い胴体からは左右に腕が伸び、仁王立ち
となった人間像にみえなくもない。とくに印象的なのは、
胴体のなかほどに突如出現した丸い顔だ。
タイトルからすると、嫌でも太陽そのものの表情と読め
てしまう。顔面の真ん中を縦に線が走り、左側が中央
まで迫り出してきて、鼻や唇を形づくっている。唇は
尖って盛り上がり、何かを主張していまにも喋りはじ
めんばかりの様子だ。眼(まなこ)はあたかも丸い餅が
両サイドから引っ張られ、ちぎれてしまう直前のような
楕円形をしている。厳しく、きわめて鋭い目つきといっ
ていい。相手をやや見上げるようにして、闘争の姿勢を
とる。この挑みかかる形相を、両サイドからしっかりと
支えているのが、真っ赤な炎を想わせるギザギザの稲妻
の模様だった。
いまや誰知らぬ者のない容貌となった感のある「太陽の
塔」だが、本展をみるとその原点はどうやら旧東京都
庁舎の陶板壁画「日の壁」(写真1956年)にありそうで
ある。同じ丹下健三が本体設計を担当し、その端正な
モダニズムを内側から引っ掻きまわす起爆剤として、再び
岡本太郎が呼び出されたいわば確信犯的デザインだからだ。
「日の壁」の中央には緑色の丸い顔がある。やや右上を見据える両眼は、真ん中を楔が縦に走る。
左側が中央まで迫り出してきて、いまにも何ごとか喚きはじめんばかりの様子だ。眼(まなこ)は
餅が引きちぎられたきわめて険しい目つきをしているといっていい。ただ顔の両サイドを飾る稲妻は、
まだ顔のなかで緑と鋭い対立を形づくっているだけだ。「太陽の塔」を語ろうとするとき、いつも
動と静、アヴァンギャルドとエスタブリッシュされた主流派で対比される岡本と丹下だが、存外
ふたりの相性は、それほどには悪くなかったのかもしれない。
(川崎市岡本太郎美術館、~平成29年7月2日)   ★★★★★




勅使河原 純

東北大学美学西洋美術史学科卒業。世田谷美術館に入り、学芸業務のかたわら美術評論活動をスタート。学芸部長、副館長を経て2009年4月、JR三鷹駅前に美術評論事務所 JT-ART-OFFICE を設立、独立する。執筆・講演を通じ「美術の面白さをひろく伝え、アートライフの充実をめざす」活動を展開中。熟年世代の生活をアートで活気づけるプログラムにも力を入れている。さらにジャーナリズム、ミュージアム、ギャラリー、行政と連携し「プロ作家になりたい人」、「美術評論家として自立したい人」のためのネットワーク・システムづくりを研究・実践している。

公式サイト
http://www.jt-art-office.com/